【抜き書きノート】
... ピーター・ドラッカー 『マネジメント』 より
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それらの経験が私に教えたものは、第一に、マネジメントには基本とすべきもの、原則とすべきものがあるということだった。
第二に、しかし、それらの基本と原則は、それぞれの企業、政府機関、NPOの置かれた国、文化、状況に応じて適用していかなければならないということだった。(中略)
そして第三に、もう一つの、しかもきわめて重要な「しかし」があった。それは、いかに余儀なく見えようとも、またいかに風潮になっていようとも、基本と原則に反するものは、例外なく時を経ず破綻するという事実だった。基本と原則は、状況に応じて適用すべきものではあっても、断じて破棄してはならないものである。
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組織が存在するのは組織自体のためではない。自らの機能を果たすことによって、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである。組織は、目的ではなく手段である。したがって問題は、「その組織は何か」ではない。「その組織は何をなすべきか。機能は何か」である。
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マネジメントには、自らの組織をして社会に貢献させるうえで三つの役割がある。それら三つの役割は、異質ではあるが同じように重要である。
(1)自らの組織に特有の使命を果たす。マネジメントは、組織に特有の使命、すなわちそれぞれの目的を果たすために存在する。
(2)仕事を通じて働く人たちを生かす。現代社会においては、組織こそ、一人ひとりの人間にとって、生計の資(かて)、社会的な地位、コミュニティとの絆を手にし、自己実現を図る手段である。当然、働く人を生かすことが重要な意味を持つ。
(3)自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する。マネジメントには、自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する役割がある。
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存在と健全さを犠牲にして、目先の利益を手にすることに価値はない。逆に、壮大な未来を手にしようとして危機を招くことは無責任である。今日では、短期的な経済上の意志決定が環境や資源に与える長期的な影響にも考慮しなければならない。
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利益は、個々の企業にとっても必要である。しかしそれは企業や企業活動にとって、目的ではなく条件である。企業活動や企業の意志決定にとって、原因や理由や根拠ではなく、その妥当性の測定基準となるものである。
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企業の目的は、それぞれの企業の外にある。企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的の定義は一つしかない。それは、顧客を創造することである。
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企業とは何かを決めるのは顧客である。なぜなら顧客だけが、財やサービスに対する支払いの意志を持ち、経済資源を富に、モノを財貨に変えるからである。しかも顧客が価値を認め購入するものは、財やサービスそのものではない。財やサービスが提供するもの、すなわち効用である。
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企業の目的は、顧客の創造である。したがって、企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。
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真のマーケティングは顧客からスタートする。すなわち現実、欲求、価値からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を問う。「われわれの製品やサービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足がこれである」と言う。
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実のところ、販売とマーケティングは逆である。同じ意味でないことはもちろん、補い合う部分さえない。もちろん何らかの販売は必要である。だがマーケティングの理想は、販売を不要にすることである。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである。
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企業の第二の機能は、イノベーションすなわち新しい満足を生みだすことである。経済的な財とサービスを供給するだけでなく、よりよく、より経済的な財とサービスを供給しなければならない。企業そのものは、より大きくなる必要はないが、常によりよくならなければならない。(中略)イノベーションの結果もたらされるものは、よりよい製品、より多くの便利さ、より大きな欲求の満足である。
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利益とは、原因ではなく結果である。マーケティング、イノベーション、生産性向上の結果手にするものである。したがって利益は、それ自体致命的に重要な経済的機能を果たす必要不可欠のものである。
(1)利益は成果の判定基準である。
(2)利益は不確実性というリスクに対する保険である。
(3)利益はよりよい労働環境を生むための原資である。
(4)利益は、医療、国防、教育、オペラなど社会的なサービスと満足をもたらす原資である。
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企業の目的としての事業が十分に検討されていないことが、企業の挫折や失敗の最大の原因である。逆に、成功を収めている企業の成功は、「われわれの事業は何か」を問い、その問いに対する答えを考え、明確にすることによってもたらされている。
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顧客によって事業は定義される。顧客を満足させることこそ、企業の使命であり目的である。したがって、「われわれの事業は何か」との問いは、企業を外部すなわち顧客と市場の観点から見て、初めて答えることができる。
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顧客にとっての関心は、彼らにとっての価値、欲求、現実である。この事実からしても、「われわれの事業は何か」との問いに答えるには、顧客からスタートしなければならない。すなわち顧客の価値、欲求、期待、現実、状況、行動からスタートしなければならない。
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したがって「顧客は誰か」との問いこそ、個々の企業の使命を定義するうえで、もっとも重要な問いである(二種類の顧客:主婦と小売店)。「顧客はどこにいるか」を問うことも重要である(シアーズ)。次の問いは、「顧客は何を買うか」である(キャデラック)。
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マネジメントたるものは、「われわれの事業は何か」を問うとき、「われわれの事業は何になるか。われわれの事業のもつ性格、使命、目的に影響を与えるおそれのある環境の変化は認められるか」「それらの予測を、事業についてのわれわれの定義、すなわち事業の目的、戦略、仕事のなかに、現時点でいかに組み込むか」を考えなければならない。
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消費者の欲求のうち、「今日の財やサービスで満たされていない欲求は何か」を問わなければならない。この問いを発し、かつ正しく答える能力をもつことが、波に乗るだけの企業と成長企業との差になる。波に乗っているだけの企業は、波とともに衰退する。
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「われわれの事業は何になるか」との問いは、予測される変化に適応するための問いである。その狙いは、現在の事業を修正し、延長し、発展させることである。
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「われわれの事業は何であるべきか」との問いも必要である。現在の事業をまったく別の事業に変えることによって、新しい機会を開拓し、創造することができるかもしれない。この問いを発しない企業は、重大な機会を逃す。
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「われわれの事業は何であるべきか」との問いに答えるうえで考慮すべき要因は、社会、経済、市場の変化であり、イノベーションである。自らによるイノベーションと、他者によるイノベーションである。
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事業を定義することは難しい。苦痛は大きく、リスクも大きい。しかし事業の定義があって初めて、目標を設定し、戦略を発展させ、資源を集中し、活動を開始することができる。業績をあげるべくマネジメントできるようになる。
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目標設定においても、中心となるのはマーケティングとイノベーションである。なぜなら、顧客が代価を支払うのは、この二つの分野における成果と貢献に対してだけだからである。
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マーケティングのその他の目標は、次の二つの基本的な意志決定の後でなければ設定できない。すなわち、集中の目標と市場地位の目標である。
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古代の偉大な科学者アルキメデスは、「立つ場所を与えてくれれば世界を持ちあげてみせる」と言った。アルキメデスの言う「立つ場所」が、集中すべき分野である。集中することによって、初めて世界を持ちあげることができる。したがって集中の目標は、基本中の基本というべき重大な意志決定である。集中の目標があって初めて、「われわれの事業は何か」との問いに対する答えも、意味のある行動に換えることができる。
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市場において目指すべき地位は、最大ではなく最適である。
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イノベーションの目標とは、「われわれの事業は何であるべきか」との問いに対する答えを具体的な行動に移すためのものである。いかなる企業にも、三種類のイノベーションがある。すなわち、(1)製品とサービスにおけるイノベーション、(2)市場におけるイノベーションと消費者の行動や価値観におけるイノベーション、(3)製品を市場へ持っていくまでの間におこるイノベーションである。
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戦略計画とは何か。それは、(1)リスクを伴う起業家的な意志決定を行い、(2)その実行に必要な活動を体系的に組織し、(3)それらの活動の成果を期待したものと比較測定するという連続したプロセスである。
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最後の段階が、目標実現のための行動である。「われわれの事業は何か、何になるか。何であるべきか」を考え目標を検討するのは、知識を得るためではなく行動するためである。その狙いは、組織のエネルギーと資源を正しい成果に集中することである。したがって、検討の結果もたらされるべきものは、具体的な目標、期限、計画であり、具体的な仕事の割り当てである。目標は、実行に移さなければ目標ではない。夢にすぎない。
... ピーター・ドラッカー 『マネジメント』 より