【抜き書きノート】
... 三枝匡 『戦略プロフェッショナル』 より
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事業戦略を成功させるには、現在業界で当たり前になっている競争のルールに穴をあけなければならない。つまり事業に成功する人は、自分で新しい競争のルールを創り出していく人である。今市場で行われている競争のルール(業界の「常識」)にのっとってやっているだけなら、二位の企業は永遠に二位、三位の企業は永遠に三位のままである。
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局地戦争に持ち込むべきである。「絞り」、経営戦略論で「セグメンテーション」と呼ぶ。ビジネスはどんな小さなセグメントでもいいから、その分野でナンバーワンになるのが勝利のコツである。
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「プロダクト・ポートフォリオ理論」により、それまで経営者が頭の中でバラバラに考え、ほとんど勘でしか関連づけることのできなかった重要な経営要素が、ひとつのチャートの上で鮮明に結合されたのだ。マーケットシェアの価値、事業のライフサイクル、キャッシュフロー、コストの動き、価格政策、多角化戦略や撤退戦略、・・・・・・そういった複雑な戦略課題がビジュアルなチャートでたちどころに整理されてしまうのだから、説明を聞いている経営者たちは目をランランと輝かせたのである。
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もともと企業戦略論は、現実を「単純化」して問題の核心に迫るのが役割である。優れた戦略論はしがらみなどお構いなしに、単刀直入に問題の本質に切り込む。競争に勝つのか負けるのか、戦略論の目的はそこにしかないからである。
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日本のビジネスマンの多くは、たとえ戦略理論を勉強したことがあってもなくても、その実践的価値をほとんど知らない。会社の現場レベルで、どれほど有効に使えるのか使えないのか、とことん確かめたことのある人は本当に少ない。しかし逆に言うと、いま日本で戦略理論をうまく使う人は、予想外の効果をあげることができる。分厚い本に書いてある複雑にこね回した理論を考える必要はない。単純な基礎的セオリーを完全にマスターし、それを自分の判断やプランニングに忠実に使えば、時としてめざましい効果をあげることができる。
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いつの時代も「優れた戦略」は「優れたリーダーシップ」と結びついてこそ、初めて大きな効果を生む。問われるのは、あなた自身の実戦性、つまり戦場で「理論」と「実行」を結合できるかである。
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会社の大小にかかわらず、攻めの経営をするときのもっとも貴重な経営資源の一つは、しばしば経営トップの時間である。自分の仕事の優先順位(プライオリティ)をはっきりさせる必要がある。
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アメリカのベンチャー・キャピタリストがリスクの高い投資をする時は、その事業の粗利益率を非常に気にする。粗利益率の低い事業は、働いても働いても、利益が出にくい。粗利益が低い原因は一つしかない。コストに比べて、十分に高い価格がつけられていないからだ。なぜ価格を高くつけられないかと言えば、単純な話で、お客の認めてくれる価値がそれだけしかないからだ。そんな事業は、コストを画期的に下げられる見通しがない限り、構造的に魅力のない事業である可能性が高い。だから、なけなしの経営資源を粗利益率の低いプロジェクトに注ぎ込んでしまうのは、絶対に要注意なのである。
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まずはオーソドックスに現状分析から始めなければならない。「業績」→「市場の規模・成長率」→「競合」→「当社の強み・弱み」
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少なくとも、製品戦略をたてる時に考えなければならない競争のメカニズムは、製品がたとえメディカル関係であろうが、あるいはチョコレートや化粧品のような一般消費者向けの商品であろうが、基本的には同じである。
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競争相手の存在を忘れるなと言えば、そんなことは当たり前だと思うだろうが、実際にいつも競争相手のことを考えながら仕事をしている人々は、驚くほど少ない。だからこそ、戦略的に動く人が事業を伸ばすことができるのだ。
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プロダクト・ライフサイクルのセオリーから言えば、市場がいま成長期の前半にあるかぎり、競合関係は安定していない。マーケットシェアは依然として流動的である。
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革新的な新製品は、プロダクト・ライフサイクルの新しいカーブの上を、先頭を切って走り出す。うまくゆけば既存製品を急速に陳腐化させ、「ご破算で願いましては・・・・」と、現在の市場地図を新たに書き直させてくれるかもしれない。しかし、シェアをひっくり返すのに要するエネルギーは、この先、時間がたつほど増えていく。だから急がなければならない。プロダクト・ライフサイクルのセオリーからは、こんな読みが可能である。
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新しくベンチャーに投資をする時の判断の決め手は、次のようなものである。
(1)まず第一に、その会社の経営陣。社長は人材として一流か。異なった分野の人々がうまく組合わさっているか。彼らの過去の実績は。
(2)やろうとしている事業が成長分野かどうか(市場が伸びない分野で新企業が成功するのは至難)。
(3)その市場の中でユニークさがあるか(競合に勝てるのか)。
この議論は、ベンチャー経営のように事業リスクが濃縮された環境では、経営トップの「戦略意識」が成功を勝ちとるための絶対不可欠な要素であることを示している。
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戦略的な観点からは、その会社が世の中の競合に比べて、いい勝負をしているのかどうかがカギである。競争とは相対的なものだからだ。
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今日の経営戦略論の多くは、プロダクト・ライフサイクルの考え方を包含しているか、暗にそれを前提にしていることが多い。なぜそれが重要かといえば、事業や製品がプロダクト・ライフサイクルの段階を進むにつれて、市場での競争の形態が変化していき、そこで競合に打ち勝つカギも移行していくからだ。
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成長戦略のポイントは、「絞り」と「集中」だ。どんな小さな市場セグメントでもよいから、ナンバーワンになることである。そしてそれがある程度進んだら、再投資のサイクルを確立しなければならない。再投資サイクルを効果的に回すためにも、「絞り」と「集中」が不可欠だ。
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事業戦略の問題点を解いていく時には、初めから大上段に構えず、何か一つ、おかしいと引っかかった問題からスタートして、なぜ、なぜ、なぜとチェックを拡げていくのが一番効率がよい。
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価格問題には、売り手、買い手、競合の三者の思惑が正直に凝集して現われる。
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価格は相手が受けるメリットで決まるものだ。こちらのコストではない。コスト一円でも、相手にメリットがあれば一万円でも売れる。コスト一万円でも、相手にメリットがなければ一円でも引き取ってくれない。価格決めは、顧客のロジックを読むゲームである。
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相手が900なら、そこからさらにターゲットを絞り、個別撃破のマーケティングができる。
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ユーザーの障壁が高い場合、一度中に入ると立場が逆になる。
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組立てる戦略のすべての「時間軸」が、予想される競争相手の出現によって否応なしに制約されることになる。
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計画を立て、その実行のために泥沼を歩き、しかしいつも夢を忘れず、間違いがあればその場で修正しながら、押したり引いたりして計画を実現していく、それがあなたに与えられた役割である。
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計画が計画通りいかないのは常である。大切なことは、当初組み立てた成功のシナリオのどこが崩れてきたかを早く発見することである。たとえ事業がある程度の成功を収めつつあっても、当初のシナリオとの乖離をシビアに検討することが、あなたの当初の判断の間違いを検証し、そこで「失敗の疑似体験」をすることになる。
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「失敗のシナリオ」を描くということも有効な手法である。この事業が失敗するとすれば、どういう筋書きでドロ沼に落ちていくか。その場合、どのような逃げの手がありうるのか。これは見えない因果律を読みとろうとする訓練なのである。
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プランニングは将来のことを考えるのだから、すべてのリスクを読み切ることは絶対にできない。つまり、誰もが常に失敗する可能性を抱えている。しかし、将来のリスクをできるだけ予測し、成功の確立を上げる工夫はできる。たとえ現実がそのシナリオ通りにいかなくとも、プランニングによって我々のカンはさらに磨かれ、事業はよりよい戦略へと導かれていくのだ。
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目標達成ができる、できないの議論はやめて、できるためには何をすればよいかを考えて欲しい。
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自分たちが売ろうとしているのは本当に○○だろうか。実は△△ではないのか。そう割り切れば、違った売り方も考えられるのではないか。当事者としてどっぷりつかってしまうと、既成概念にとらわれる。
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問題の根元
(1)営業の「リーダーシップ」が足りない。
(2)販売の「目標」がはっきりしない。
(3)営業の活動に「絞り」がない。
(4)製品の良さを説明するための「道具」が足りない。
(5)代理店まかせで「顧客」がつかめていない。
(6)こんな状況でずっときたから何をやるにも「自信」がない。
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企業の経営改善には「戦略」が必要だ。そして、これを実行に移すための具体的「プログラム」が必要だ。社内の誰もが理解できる「単純な目標」と、その実現を支援してやるための一連の「プログラム」を打ち出すことによって、「目標と現実のギャップ」に橋がかかる。
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本当の人材は最前線の修羅場を通り抜けなければ育たない。
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同じことを問い続ける。「それで勝てるか」「それで勝てるか」「それで勝てるか」
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皆が燃えていた。仕事に熱中し、それが全く苦痛ではなかった。七転八倒しながら、「考える集団」になろうとしていた。
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「提案書」は、メリットを文書化し提出する。ユーザー組織の中で説明が「一人歩き」しても大丈夫なように、分かりやすく文書化する。
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企業戦略を立てていく過程は、かなり論理的、分析的に詰めていく作業である。だから、そうした分析が得意な人は、たとえ実務経験の少ない人でも、十分この分野で活躍することができる。
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成功する戦略は、会社の体力を考えてまず「戦いの場」を絞ること、そしてそこに、社内のエネルギーを「集中」させていく。
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「実績によるプランニング」、つまり過去の実績や経験に基づいて将来の売上予測を立てるのは、「勝者の論理」である。それなのに、負けている者が過去と同じ発想で将来の予測を立てたところで、大した変化を引き起こすことができないのは明らかではないか。そこでもう一つのやり方が必要になる。「目標先行のプランニング」だ。まず先に目標を設定する。とりあえず、それが実現可能か不可能かを横に置いて、「これぐらいやらないとまずい」という数字を先に出してしまうやり方だ。
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打ち出された目標と組織の力量にはギャップがある。そういう目標の出し方をしたのだから当たり前だ。そのギャップを埋めるための新しい戦略を開発することが「目標先行のプランニング」のいちばん大切なところだ。目標の数字を出すことよりも、その方がそもそもの目的だったのだとさえ断言できる。そして出てきた戦略がそれで行けると思えば、目標をそのまま確定する。戦略の切れ味が悪そうだと思えば、さらに強力な戦略を考案するよう仕向けるか、もし時間がなくなればその時点で目標を下げて、行動を開始するかのどちらかだ。
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「目標先行のプランニング」を成功させるためには、指揮官であるあなたは、新しい戦略を考え出す作業手順をマスターしていなければならない。作業のステップごとに、どんな選択肢があるのかきちんとチェックし、責任者として自分でそれを詰めていく「緻密さ」を持っていること。
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良い戦略は極めて単純明快である。逆に、時間をかけ複雑な説明をしないと理解してもらえない戦略は、だいたい悪い戦略である。悪いという意味は、やっても効果が出ないという意味である。
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戦略理論の中に市場の「セグメンテーション」というのがある。それを営業活動の計画づくりに応用すると効果的である。製品の売り込みに敏感に反応してくれそうな顧客と、それほどでもない顧客に分類する。何に注目してユーザーを分類するかで市場のマップが変ってくる。
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企業戦略の中で、セグメンテーションほど創造性を求められるものは他にない。競合企業の気づかぬうちに、新しいセグメンテーションを創り出す企業が、勝ちを収める。しかし、市場をただ分割すればよいというのではない。セグメントする基準(セグメンテーション要素)は、戦略目的に「完璧に」合致していないといけない。そうでないセグメンテーションは使い物にならないか、またはそれを本当に実行に移せば、貴重な時間や経営資源を浪費するという実害を生む。創り出したセグメンテーションが戦略に合致し、内容が単純明快であればあるほど、それは強力な武器になる。
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顧客をグループ分けして、攻撃の優先順位を示す。獲得の望みの低い客とか、獲得してもこちらのメリットの低い客は後回しにするよう分離する。
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うまくできたセグメンテーションは、客になってくれそうな人々がどこにいるかを示すだけではない。それは、客になってくれそうもない人々がどこにいるかも示してくれるのである。時間的プレッシャーの下で戦略展開をする時には、それは営業マンが近づいてはならないセグメントになるのだ。
... 三枝匡 『戦略プロフェッショナル』 より